#あらぬ噂
ねぇ、聞いた?裏通りにある肉屋の噂。とびきり珍しい肉が入ったんだって。
ううん、人間じゃないよ。たしかにそれもこのあたりでは珍しいけど……最近はたまに人間も売ってるじゃない?あのお店。買ったことないけどさ。
ううん、人間じゃないよ。たしかにそれもこのあたりでは珍しいけど……最近はたまに人間も売ってるじゃない?あのお店。買ったことないけどさ。
それはね……人魚の肉、なんだって。
…どうしたの?急に黙っちゃって。
あはは、信じてないんでしょ。そりゃそうだよね。
私だってはじめは信じなかったよ。
私だってはじめは信じなかったよ。
でもね、確かに噂になってるんだ。肉屋の作業場から聞こえる歌声のこと。
それを聞いた人たちが次々と姿を消してて……あれは人魚に呼ばれているんだって。
……うん、実際何がいるのか見た人はいないと思うよ。
でも肉屋のご主人に聞くと「人魚を仕入れたんだ」の一点張り。
そう言った時のご主人の顔ったらなかったな。まるで自分のことみたいに誇らしげだった。ただ変わった肉を仕入れただけなのにね。
え?ああ……うん。昨日行ったんだ、私も……。
ううん、肉自体に興味はなくて……。私、昨日の夜、偶然あの通りにいて。
噂が気になって、あの肉屋に行ったの。
そうしたら確かに聞こえたんだ。歌声が。
それでどうしても声の正体が気になって、肉屋の裏口からそっと中を覗いてみた。
作業場は真っ暗で何も見えなかったけど、すごく嫌な雰囲気で…
でも、その歌は確かに暗闇の向こうから聞こえてきた。
ううん。どんな声だかは……、覚えてないや。
ただ、懐かしいなって……
……え? ……あれ。なんで泣いてるんだろ。ごめん。
変なんだ、昨日から。
やけに喉が渇くし、水面がいやにまぶしくて……
耳の奥にずっとあの歌声が残っているようで。
……苦しいんだ。ここにいちゃいけない感じがして。
ごめん……今日は帰るよ。
うん。大丈夫。また明日ね。
……行かなきゃ、私。