4:「弾けないですよ」
「ぱちぱち」
「…いないのかと思った…」
「最初からいましたよお」
「言えばいいのに」
「わたしのせいで先輩のピアノが聞けなくなるのは、わたしがいやです」
「それはどうも」
「つきのひかりですね」
「ああ、うん」
「月光、のほうよりわたしは好きです」
「俺も」
「先輩って、楽譜見ないんですか」
「見ないね」
「なぁんだ、先輩の杆体細胞が発達しすぎてやばいのかと思ったのに」
「そしたら日出後輩の顔もはっきり見えるね」
「それはたいへんです、先輩のへんたいー」
「失礼な」
「大変大変大変態ですね」
「だいへんたい」
「うわぁ」
「……」
「浅野先輩」
「うん、日出後輩」
「春から今まで弾いた曲、全部暗記ですか?」
「俺が、ずっと電気つけてなかったなら、そう」
「記憶力がいいんですねー」
「まあ、取り柄ではあると思うよ」
「頭もよさそうですねー」
「…成績は、悪くはないと思うけど」
「わあ、頭いい人みたいなこと言ってる」
「ほっといてください」
「わーい」
「……」
「……」
「先輩はクラシック以外も弾きますね」
「まあ、気に入った曲はなんでも弾いてるね」
「楽しそうでいいですねー」
「日出後輩はピアノ、弾かないのか」
「弾けないですよ」
「聞きはするんだな」
「気に入った曲は、なんでも!」
「そっか」
「いいですねえ、ピアノ弾けて」
「弾けば弾けるもんだよ」
「そんなもんですかねえ」
「そんなもんだよ」
「努力します」
「何か弾きたい曲でもあんの?」
「たくさん」
「がんばって」
「がんばります」
「がんばれ」